さびときどききじ

静岡県掛川市の、きたがわ動物病院の獣医師によるブログです。業務とは無関係な記事の方が多いかもしれません。子供3人、猫3匹を養いつつ、木工、庭づくり、料理など、手作りにも果敢に挑戦しています。

わんちゃんの皮膚の痒みに。「アポキル錠」のお話

こんにちは。

朝晩の足先の冷えが気になる季節になりました。

耳の大きなわんちゃん(ダックス、コッカーさんなど)やうさぎさん(特にロップさん)も、これからの季節、耳が冷えて血行障害を起こしやすくなります。

耳の先端がフケっぽい、耳縁にかさぶたが多い、耳だけ毛が抜けてきたなど・・・

血行不良による耳の皮膚トラブルにご注意ください。

保温・保湿を心がけましょう。

 

11月~12月の休診日は以下のとおりです。

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11.23(金)終日休診

12.1  (土)午前休診(午後3時~)

12.2  (日)終日休診

12.24(月)終日休診

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年末年始のお休みは追ってお知らせします。

 

さて今日は、わんちゃんの皮膚のお薬をご紹介します。

日本では2016年に発売された、犬のアレルギー性皮膚炎・アトピー性皮膚炎の治療薬「アポキル錠」。

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ご存知の方も多いかと思いますが、わんちゃんは皮膚の痒みトラブルがとても多いです。なぜ痒いのか・・原因はさまざまです。

原因としてアレルギー性の疾患がある場合があります。この場合、食物アレルギーであれば原因となる食べ物を食べなければ解決します。しかし、環境要因(ハウスダスト、花粉等)のアレルギー(アトピー性皮膚炎)の場合は、原因物質との接触をゼロにすることは現実的に不可能です。

また、わんちゃんの皮膚はアルカリ性のため雑菌が繁殖しやすく、皮膚炎となるケースや、皮脂分泌過剰によりマラセチア(カビの仲間、常在菌です)の数が増え、皮膚炎を起こすケースもあります。

さらには、精神的な原因で体を舐め始めたものの、舐めることで痒みを起こしてしまうケースもあり得ます。

 

このように原因は様々であるものの、結果として皮膚の痒みを起こし、掻くことでよけいに皮膚炎を悪化させてしまいます。

 

長い間、このようなわんちゃんの皮膚の痒み治療にはステロイドの内服が用いられてきました。

ステロイドは、体内の炎症反応のおおもとを強力に抑制するお薬です。

ヒト医療においても、ステロイドにより様々な自己免疫疾患が治療されてきました。

沢山の命を救った素晴らしいお薬です(開発した研究者はノーベル賞を受賞しています)。

しかし、ステロイドの長期使用は肝臓への負担など副作用のリスクも高く、個体によっては短期間でも副作用が強くでる場合もあります。そのため、高齢の子への使用も難しくなります。

炎症のおおもとを抑制するので、感染症に対する抵抗力を弱めてしまうという心配もしなければなりません。

命に係わる自己免疫疾患とは違い、皮膚炎の治療のために肝臓を悪くしてしまうのでは、本末転倒です。

また、動物は被毛があり体を舐めるので、ヒトのようにステロイドの外用薬は使えないことが多いです。

 

獣医学領域におけるこの痒み問題の突破口となったお薬が「アポキル」です。

アポキルは、皮膚の痒みを伝達する経路をシャットアウトするお薬です。

痒み→掻く→皮膚炎→よけい痒くなる・・・という皮膚の痒みスパイラルをたちきることで皮膚を正常化へと導きます。

ステロイドとは作用機序が異なるため、顕著な副作用はほぼありません。

免疫力を低下させる心配もありません。

ごくわずかな例で嘔吐などの消化器症状がみられるケースがありますが、重篤なものではないようです。

 

発売から2年たち、当院でもアポキルを使用して痒みがおさまり皮膚の状態もほぼ良好に保たれている子がたくさんいます。

もちろん、おおもとの原因を治療するものではありませんが、わんちゃんの場合は掻くことで皮膚が悪化することが多いので、痒みをとり除くだけで皮膚の状態はある程度改善するのではと思います。

必要に応じて、皮膚の雑菌を減らすために抗生剤を併用したり、マラセチアを減らすための薬用シャンプーで洗ったり・・原因に合わせて治療をしていきます。

極端に皮膚の状態が悪い場合は、一時的にステロイドを使うこともありますが、その後はアポキルで維持することが可能な場合も多いです。

 

 

ここまでメリットだけをお話ししてきましたが、アポキルの唯一の難点は、金額が高いことです。

ステロイドが安価である分、さらに高く感じてしまいます。

この問題をクリアする画期的な方法は今のところありませんが・・・、

皮膚炎が強い状態では1日2回の投薬となりますが、状態が安定してくれば投薬を1日1回に減らすこともできます。また、皮膚炎の原因となる環境抗原は真冬には少なくなりますので、真冬は投薬が必要ないというわんちゃんもいます。

皮膚の状態に合わせて処方していますので、ご相談ください。