さびときどききじ

静岡県掛川市の、きたがわ動物病院の獣医師によるブログです。業務とは無関係な記事の方が多いかもしれません。子供3人、猫3匹を養いつつ、木工、庭づくり、料理など、手作りにも果敢に挑戦しています。

野外でうさぎを見つけたときは

こんにちは。

更新がスローペースになっておりますが、病院は通常通り診療していますのでご安心ください。

 

さて、なんだかんだで夏休みも近づき、本屋さんなどにも自由研究がらみの商品がたくさん置いてありますね。

生き物好きの長男は、アリの観察キットに夢中です。

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アリを投入して数日で、けっこうな迷路ができあがっています。

働きものです。

この容器にトレーシングペーパーを重ねて、巣の様子をなぞって記録することができるのですが・・・

 

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・・・ありえない時刻が刻まれております。

軽くめまいが・・・。

永遠のワンダーボーイ

彼が大人になってえらそうなことを言ったら、この写真をみせてやろうと思います。

 

さて、病院のお話しです。

最近、野外のうさぎさんを保護して連れてこられる方が増えています。

うさぎさんは一般的に、ノウサギ(野うさぎ)とアナウサギ(穴うさぎ)に大別されます。

ノウサギは、日本に昔からいるうさぎで、手足が長くしなやかな体つき、優れた跳躍力をもちます。

アナウサギは、地面に穴を掘って暮らすおとなしいウサギで、ペットとして飼育されているウサギさんは、このアナウサギを品種改良したものです。もともとは日本にはいなかったうさぎです。

野外でみかけるウサギさんは基本的にこのどちらかになります。(アマミノクロウサギナキウサギなどのレアキャラはここでは割愛します。)

ノウサギが保護される場合、ケガや病気で弱っているか、警戒心のまだない仔ウサギであることが多いです。

アナウサギの場合は、ペットとして飼育されていたものが野外に放されたか、野外に放されたものが繁殖しているかどちらかになると思います。

 

野外でうさぎさんを保護される場合は、そのうさぎさんが完全な野生動物(ノウサギ)なのか、それとも捨てられたペット(アナウサギ)なのか、よく考えましょう。

ここでは、ノウサギ(特に仔ウサギ)を保護した場合についてお話したいと思います。

 

まず、ノウサギを一般の方がペットとして飼育することは簡単ではありません。

仔うさぎはまんまるい手のひらサイズで愛らしく、思わず連れて帰りたくなりますが、成長するとアナウサギよりも運動量があり跳躍力があります。ペットのうさぎと同じ感覚では飼育できません。市販されているウサギ飼育用のケージは、大人しいアナウサギ用に作られていますので、広さ・高さも充分ではありません。

 

また、親が近くにいない仔ウサギを見つけても、安易に連れて帰るのは避けましょう。ウサギの場合、親子が長時間一緒に行動することはありません。一緒にいることで天敵に狙われてしまうからです。授乳期の親は子供のいる巣とは別の場所にいて、授乳のために子供の巣に行くのは1日1回程度だといわれています。子供が狙われそうな際には、自分がおとりとなって子供への注意をそらします。仔ウサギは、何度も危険を乗り越えることで警戒心を養い成長し、独り立ちします。

頼りなげに見える仔ウサギですが、人が思うよりもずっとたくましく生きています。

安易に手を貸さずに、成長を見守ってあげましょう。

 

 

また、野生の食性で生きてきたウサギを突然人工的な餌で飼育することで、腸内細菌のバランスを崩してしまう可能性があります。特に仔ウサギは炭水化物(糖質)を分解する機能が弱く、ペットウサギにおいても、生後1~3か月ほどの離乳期に炭水化物の多い人工的な餌を与えることで突然の消化器症状(下痢)により死亡するケースがよくあります。

保護するつもりで連れ帰っても、うまく飼育できずに残念な結果になってしまうことが十分考えられます。

 

最後に、ウサギに限らず野生動物はマダニなどの外部寄生虫を持っていることがあります。野生動物を人の生活環境に連れ帰ることで、これらの寄生虫が人やペットに感染する可能性があります。特にマダニはウィルスや細菌感染症(ウサギは野兎病が有名です)を媒介する可能性が指摘されています。感染症防疫の観点からも、野生動物を連れ帰ることにはリスクが伴います。

 

話が長くなってしまいましたが、ノウサギを見かけて保護しようとなった際は、以上のことを思い出していただければと思います。

静岡県のホームページでも野生動物の保護に関する指針が示されていますので、ご覧ください。

静岡県/ケガをした野生鳥獣を見つけたら

 

野生動物の世界は、人間社会の価値観では理解できないことがたくさんあると思います。理不尽なことも天敵の存在も(寄生虫も・・)、すべて受け入れて戦いながら動物は生きています。ピンチを自力で切り抜けることで成長し、強く賢くなり、その遺伝子が次世代へ受け継がれます。

人間は少し距離を置いて、彼らを見守ってあげたいですね。